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浦和地方裁判所越谷支部 昭和55年(わ)109号 判決

被告人 細田勇夫

昭一九・五・四生 会社員

主文

被告人を懲役四月および罰金二万円に処する。

未決勾留日数中七〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和五五年四月八日午前〇時五分ころ、埼玉県三郷市戸ヶ崎二三〇六番地二一付近道路において、

第一、酒気を帯びて、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で普通乗用自動車を運転し

第二、業務その他正当な理由がないのに、右自動車の後部トランク内に刃体の長さ八・四センチメートル、同一三・一センチメートル、同一四・五センチメートルのナイフ合計三丁を携帯し

たものである。

(証拠の標目)(略)

なお、弁護人は、被告人の判示第二の所為は、銃砲刀剣類所持等取締法二二条にいう携帯に該当しない。仮に携帯に該当するとしても正当な理由がある。また可罰的違法性がない旨主張するので、この点について判断する。同条が所定の刃物の携帯を禁止しているのは右所定の刃物を日常生活を営む自宅ないしは居室で直ちに使用しうる状態で身辺においても通常の場合危険性を伴なわないから許されるべきであるが、業務その他正当な理由がないのに右以外の場所で直ちに使用しうる状態で身辺におくときは容易に他人の面前でこれを用い易く、他人に危害をおよぼすおそれがあるからこれを防止しようとするにある。したがつて、同条にいう携帯とは、所持の一態様であるが、所持より狭義の概念であり、日常生活を営む自宅ないし居室以外の場所で所定の刃物を直ちに使用しうる支配状態で身辺におき、かつ、その状態が多少持続することをいうと解するのが相当である。ところで、携帯は握持より広義の概念であるから所定の刃物を必ずしも直接手に持つなど身に帯びている場合に限らず、例えば、自己の運転する自動車の車内はもちろん、後部トランク内においた場合でも、自動車を停止すれば、これを直ちに使用しうる状態で自己の支配下においた、と認められる場合には携帯というに妨げないと解する。これを本件についてみるに、前掲証拠(証人千野紀男の当公判廷における供述中後記措信しない部分を除く。)によれば、被告人は、本件の約一週間前からダンボール製の衣装箱の中に、衣類とともに本件刃物三丁を入れ、これを自己の常時運転する本件自動車の後部トランクに入れておき、本件の際もそのまま本件自動車を運転していたものであり、しかも右衣装箱は布製のバンドを結んでとめていただけであつて極めて容易にトランクを開けて本件刃物を取り出すことができる状態であつたことが認められる。証人千野紀男の当公判廷における供述中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定に反する証拠はない。右事実によると、被告人の所為は同条にいう携帯に該当するとみるのが相当である。なるほど被告人が本件刃物を本件自動車のトランクに入れたのは転居のためであつたことが認められるが、被告人が転居したのは本件の約一週間も前であり、本件の際は何ら格別の理由もないのに携帯していたのであるから正当な理由のないことは明らかであり、また、本件刃物の形態、数量などからみて可罰的違法性のあることも明らかである。弁護人の主張は理由がない。

(累犯前科)

被告人は(一)昭和四九年一二月一九日東京地方裁判所で有印私文書偽造、同行使、道路交通法違反、覚せい剤取締法違反の罪により懲役一年二月に処せられ、昭和五一年四月二七日右刑の執行を受け終わり、(二)昭和五三年二月一三日同裁判所で道路交通法違反の罪により懲役四月に処せられ、同年六月一二日右刑の執行を受け終つたものであり、右事実は被告人の当公判廷における供述および前科調書ならびに判決謄本によつて認める。

(法令の適用)

判示所為   第一、酒酔い運転の点 道路交通法六五条一項、一一七条の二第一号

第二、銃砲刀剣類所持等取締法三二条三号、二二条、同法施行規則一七条

刑種の選択  判示第一の所為について懲役刑、判示第二の所為について罰金刑

累犯加重   判示第一の所為について刑法五九条、五六条一項、五七条

併合罪の処理 刑法四五条前段、四八条一項本文

未決勾留日数の算入 懲役刑について刑法二一条

訴訟費用   刑事訴訟法一八一条一項但書

(裁判官 小林昇一)

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